検証:モンテカルロ・シミュレーション(各戦略150万ハンド×6試行=900万ハンド)
「ブラックジャックは控除率が低い、カジノで一番有利なゲーム」。よく聞く話だ。でもそれは“正しく打てば”の話。ベーシックストラテジー(基本戦略)を知らずに、なんとなく打っているとどうなるのか。直感ではなく、実際にコンピュータで900万回プレイさせて、失う額がどれだけ変わるのかを数字で確かめた。
検証の前提:ルールと3つの打ち方
ハウスエッジ(控除率)はルールで変わるので、まず条件を固定する。今回は世界的に標準的な、こんなテーブルを想定した。
- 6デッキ
- ディーラーはソフト17でスタンド(S17)
- ブラックジャックの配当は3:2
- ダブルダウン・スプリット可(スプリット後のダブルもOK=DAS可)
- サレンダー(降参)なし
このテーブルで、性格の違う3人のプレイヤーに各900万ハンドずつ打たせた。
① ベーシックストラテジー(教科書どおりの人)
自分の手とディーラーのアップカードの組み合わせごとに、数学的に最も損の少ない選択(ヒット/スタンド/ダブル/スプリット)を毎回する。表を丸暗記している人。
② ディーラー模倣(「ディーラーと同じに打てばいいでしょ」の人)
17以上になるまで引いて、17以上で止める。ダブルもスプリットもしない。一見、規律正しく見える打ち方。初心者が「とりあえず安全そう」と思ってやりがちな打法だ。
③ バストが怖い人(「21を超えたくない」の人)
ハード12以上になったら、それ以上は引かない。とにかくバスト(21オーバー)したくない。ダブルもスプリットもしない。心理的にいちばん“ありがち”な打ち方。
結果:失う額は最大で13倍違った
ハウスエッジは「1回の最初のベットに対して、平均でどれだけ失うか」を%で表したもの。数字が大きいほど損が大きい。
| 打ち方 | ハウスエッジ | 基本戦略との差 |
|---|---|---|
| ① ベーシックストラテジー | +0.455% | ―(基準) |
| ② ディーラー模倣 | +5.72% | 約12.6倍 |
| ③ バストが怖い人 | +6.01% | 約13.2倍 |
※各数値は150万ハンド×6試行(合計900万ハンド)の平均。試行間のばらつき(標準誤差)はいずれも±0.04%以内に収まっており、誤差では説明できない明確な差。ベーシックストラテジーの+0.455%は、6デッキ・S17・DAS・サレンダーなしの理論値(おおむね0.4〜0.46%)とほぼ一致しており、シミュレーションの妥当性も確認できている。
KEY POINT
「ディーラーと同じように打つ」という、一見もっとも無難に見える打ち方ですら、ベーシックストラテジーの約12.6倍損をする。そして多くの人が無意識にやる「バストが怖くて止まる」は、それよりさらに悪い。戦略を知らないだけで、同じ時間・同じ予算で失う額がおよそ10倍以上に膨らむ。
金額にすると、どれくらい違うのか
%だとピンと来ないので、具体的な金額に落とす。1ハンド1,000円を、1時間に100ハンド(=毎時10万円分をベット)、合計4時間遊んだ場合の「平均的に失う額」がこうなる。
期待損失 = ベット総額 × ハウスエッジ 4時間で投じるベット総額 = 1,000円 × 100ハンド × 4時間 = 40万円
| 打ち方 | 1ハンドの期待損失 | 4時間の期待損失 |
|---|---|---|
| ① ベーシックストラテジー | 約 4.6円 | 約 1,820円 |
| ② ディーラー模倣 | 約 57円 | 約 22,900円 |
| ③ バストが怖い人 | 約 60円 | 約 24,000円 |
同じ4時間、同じ1,000円ベットで遊んでも、基本戦略なら平均で約1,800円の負けで済むところを、なんとなく打つと2万円以上溶ける。差額の約2万円は、ゲームの引きの差ではなく、「打ち方を知っているかどうか」だけで生まれている。
なぜ「ディーラー模倣」でこんなに負けるのか
ディーラーと同じ引き方をしているのに、なぜ5%以上も負けるのか。理由は主に3つある。
1. 先にバストすると、その時点で即負け。ブラックジャックは必ずプレイヤーが先に行動する。自分がバストしたら、ディーラーがその後にバストするかどうかは関係なく、もう負けが確定する。同じ引き方でも「先にコケるリスク」を一方的に背負っているのだ。これが「ハウス(カジノ)側の最大の取り分」と言われる構造そのもの。
2. ダブルダウンを捨てている。合計10や11でディーラーが弱いとき、賭け金を倍にして1枚だけ引く「ダブル」は、長期的にプラスを稼げる数少ない場面。模倣戦略はこれを一切やらないので、稼げるはずの利益を放棄している。
3. スプリットを捨てている。特に「8,8」や「A,A」。8,8は持っていると弱い16だが、2つに割れば勝てる手に化ける。A,Aも割ればブラックジャックのチャンスが2倍。ここを放置するのは大きな機会損失だ。
Kaiのメモ
面白いのは、③「バストが怖い人」が②「ディーラー模倣」よりさらに負けている点だ。バストを避けること自体は悪くない。問題は止まる場面を間違えていること。
ディーラーが7〜A(強いカード)を見せているのに、自分のハード12〜16で止まってしまう。これは「自分はバストしないけど、ディーラーは堂々と17〜21を作って勝つ」という、最も負けやすいパターンに自分から飛び込んでいる。バストの恐怖は、数字の前では割に合わない。
結論:ベーシックストラテジーは「必勝法」ではなく「最強の防御」
ここを誤解しないでほしい。ベーシックストラテジーを完璧に打っても、ハウスエッジは+0.455%。マイナスはマイナスだ。長期的には必ず負ける。これは「勝てる魔法」ではない。
では何のために覚えるのか。同じ時間・同じ予算で、失う額を10分の1以下に抑えるためだ。覚えるコストはせいぜい数十分。リターンは、4時間あたり約2万円の損失回避。これほど費用対効果の高い「勉強」はそうそうない。
責任あるギャンブルのために
ベーシックストラテジーはあくまで「負けを最小化・先延ばしにする」技術であり、期待値がプラスになるわけではありません。プレイ時間が長くなるほど、理論上の損失は確実に積み上がります。遊ぶなら、あらかじめ失っても生活に影響しない予算を決め、その範囲で。取り戻そうとする打ち方が、最も危険です。
Kaiより
「ブラックジャックは一番有利」という言葉だけが独り歩きしている。正確には「正しく打てば、カジノで最も控除率を低くできるゲーム」だ。その“正しく”を担保するのが、たった1枚の戦略表。
EV Labでは次回以降、その戦略表の中身(なぜ16でディーラー10に対してヒットなのか、など)を1場面ずつ数字で分解していく。直感ではなく、期待値で打つ。それが期待値ラボの流儀だ。